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最高裁判所第一小法廷 昭和51年(オ)886号 判決

上告人

舟越花子

右訴訟代理人

油木巖

被上告人

株式会社

佐々木組

右代表者

佐々木節市

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人油木巖の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決の挙示する証拠関係に照らし、正当として是認することができる。そうして、右事実関係のもとで、被上告人が森谷利夫に対し同人の本件出張につき自家用車の利用を許容していたことを認めるべき事情のない本件においては、同人らが米子市に向うために自家用車を運転したことをもつて、行為の外形から客観的にみても、被上告人の業務の執行にあたるということはできず、したがつて、右出張からの帰途に惹起された本件事故当時における同人の運転行為もまた被上告人の業務の執行にあたらない旨の原審の判断は、正当というべきである。原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立つて原審の判断を論難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(団藤重光 岸上康夫 藤崎萬里)

上告代理人油木巌の上告理由

原判決には審理不尽並理由不備の違反がある。

一、原判決は被上告会社が内部的に出張旅費規定(乙一号証)を設け、その金銭的出捐の手段方法内容として使用すべき車輛の種別を定め、原則として出発日時、旅行方法の届出義務を定めているが、之は上述旅費支給を大目的としていることは明白である。

二、次に乙二号証の労働安全衛生委員会議事録(乙二号証の二)は本件発生後、之に対し会社の責任を免れる目的を以て作成されたものである。即ち同議事録二頁(3)の末段直課長と誤字があること及び同議事録には集合人員及議事録署名者がないことが、之を明らかにしている。

三、森谷は当時二月三日から二月九日迄手待期間で休養中であつたが、米子市内現場のオペレーターに急用差支えが出来た為、被上告会社の森谷を急拠米子市え派遣する必要が生じた為、三日の五時頃森谷他一名に対し、翌四日午前八時に工事に着手することを命じたものであるが、森谷は右命令を受けた直後同行者と協議の結果、前日迄工事に従事していた関係上及第一審判決に指摘の如く命令を受けた時点より汽車を利用する事の不便と宿泊並準備等の関係より、自家用車を利用することの方がより至便と工事の着手上からも都合がよかつたこと、自家用車使用の件は上記の如く原則として事前に届出をなすことゝなつているが、事後の届出を全般に禁止したものでないこと、被上告会社が右社内規則の厳守を職員に徹底させていたとすれば、かゝる規則違反について森谷に何等かの処置をとるべきであるに拘らず、之を放置していたものであるから之を第一審が被上告会社が森谷の本件出張にあたり事前事後にわたり自家用車の利用を黙認したと推断するのは当然であり、本件行為を外形から客観的に見て特に会社の業務執行に当ると云うべきであるに拘らず、前審は故意に此の事実を曲解している。

四、使用者が責任を負う条件の一つに、その事故が使用者の「事業の執行について」起きた場合に限るとされているが、之が解釈は被害者救済の面から拡大解釈がとられている。(大阪地裁昭和四一、三、一一)(東京高裁昭和三六、四、一〇)(大阪地裁昭和四〇、一二、一〇)等の如くいやしくも外形的に会社の社用とせられる場合(本件は社用終了後、帰社の場合)はすべて会社に責任をとらせているにも拘らず、原審は被害者救済という大眼目の法の流れに徒らに逆う、時代を理解しない誠に不当極まる判決である。特に会社は社員の自家用車通勤によつて能力増進その他無形の利益を得ており、これら自家用車が会社業務と無関係なりと云い難く、会社が自己の便益を受くる反面、事故の発生による損害の回避のために形式的規約の如きものを設けたとしても、その運行が寧ろ会社の利益のため(特に本件の如く直接会社用務のため現場急行を必要とされる場合を考慮すれば)運行されたという半面を考慮すべきであつて被上告会社に対し第一審がその責任を負わせたことは誠に妥当なものと云わなければならない。

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